ハイテク株ブームの中、Tracers S&P500トップ10インデックスは買いか?私の答えは「ノー」

2024年のハイテク株式市場の活況を背景に、魅力的な投資信託が数多く登場し、投資家の注目を集めました。その一つが「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」(以下、SP10)です。しかし、私はこの商品への投資を見送りました。その理由は、SP10が採用する時価総額加重平均型の運用手法が、均等加重平均型に比べてリターンが劣る傾向にあること、長期的な成長性に疑問が残ること、そして少数銘柄に依存した時価総額加重平均という商品設計に構造的な課題があると考えたためです。本記事では、SP10と人気の「iFreeNEXT FANG+インデックス」(以下、FANG+)のリターンを比較し、SP10が私の投資ポートフォリオに適さない理由を詳しく解説します。

SP10とは?その特徴と課題

SP10は、S&P500指数の構成銘柄のうち、時価総額上位10社に投資するインデックスファンドです。2024年5月16日に運用開始され、信託報酬は年率0.10725%と非常に低コストである点が魅力として宣伝されています。主要構成銘柄には、マイクロソフト、アップル、エヌビディア、アマゾンなどが含まれており、米国のテック業界を牽引する企業群に集中投資できます。しかし、時価総額加重平均型であるため、時価総額の大きい銘柄(例:マイクロソフトやアップル)に投資比率が偏り、ポートフォリオの多様性が損なわれます。実際、2024年6月時点のデータでは、マイクロソフト、アップル、エヌビディアの3社だけでポートフォリオの50%以上を占めています。

出典:日興アセットマネジメント

この偏りは、特定の銘柄のパフォーマンスにリターンが大きく左右されるリスクを高めます。さらに、時価総額加重平均型は、株価が上昇した銘柄の比重が自動的に増えるため、「高値掴み」のリスクも伴います。一方、均等加重平均型では、構成銘柄に均等に投資するため、過度な集中リスクを回避し、市場の変動に対する耐性が比較的高いとされています。

少数銘柄における時価総額加重平均型の構造的欠陥

時価総額加重平均型ファンドは、「市場平均を目指す」投資戦略として広く採用されていますが、その強みは銘柄数が十分に多い場合(少なくとも数十〜百以上)に初めて発揮されます。たとえば、S&P500やナスダック100のような広範な指数では、多数の銘柄を含むことで市場全体の動きを効率的に捉え、分散効果を発揮します。しかし、SP10のように銘柄数が10程度に限定される場合、時価総額加重平均型は分散投資のメリットをほとんど提供せず、むしろテーマ型・戦略型ファンドとしての性格が強くなります。

このような少数銘柄の時価総額加重平均型には、以下のような構造的欠陥があります。

  1. 過度な集中リスク:少数の銘柄、特に時価総額上位の企業に資産が集中することで、特定の企業やセクターの影響を受けやすくなります。SP10の場合、マイクロソフトやアップルが下落すれば、ポートフォリオ全体が大きな打撃を受けます。
  2. 市場平均の反映が不十分:市場平均を目指す時価総額加重平均型は、広範な銘柄を含むことで初めて市場全体のトレンドを反映します。10銘柄では、市場の多様性を捉えることができず、特定のテーマ(例:ビッグテック)に偏った投資となります。
  3. 戦略型ファンドとしての不明確さ:SP10は、時価総額上位10社という基準で銘柄を選ぶものの、明確な投資テーマや戦略(例:AI、クラウド computing)に特化しているわけではありません。この中途半端な位置づけは、投資家にとってリスク選好に応じた選択を難しくします。

投資家がSP10のような商品を選ぶ場合、分散投資を期待するのではなく、ビッグテック企業への戦略的な集中投資として理解し、自身のリスク許容度に応じて判断する必要があります。しかし、こうした戦略型投資を求めるなら、均等加重平均型のFANG+のような商品が、より明確なテーマと高いリターン期待値を提供する点で優れていると私は考えます。

SP10とFANG+のリターン比較

Tracers S&P500トップ10インデックス(以下、SP10)の投資価値を評価するため、iFreeNEXT FANG+インデックス(以下、FANG+)とのリターンを比較します。FANG+は、フェイスブック(メタ)、アマゾン、ネットフリックス、グーグル(アルファベット)などを含む10銘柄で構成されるインデックスで、均等加重平均型を採用しています。信託報酬は年率0.7755%と、SP10の0.10725%に比べて高めです。以下では、過去5年間(2020年1月~2024年12月)のデータを、為替の影響を考慮せず、ICE Data Indicesに基づく指数のパフォーマンス(ドルベース)で比較します。SP10は2024年5月開始のため、ICE Data Indicesのバックテストデータを使用します。

仮定とデータ

  • 運用期間:5年間(2020年1月~2024年12月)
  • 年平均リターン(ドルベース、配当込み、ICE Data Indicesに基づく、信託報酬を差し引く):
    • SP10:年率16.89275%(S&P500トップ10指数のバックテストデータ)
    • FANG+:年率38.40%(NYSE FANG+指数の過去実績)
  • 信託報酬:
    • SP10:年率0.10725%
    • FANG+:年率0.7755%
  • リターン計算:信託報酬を差し引いた年平均リターンを、複利計算で算出。

リターン比較表

項目SP10FANG+
年平均リターン16.89275%38.40%
信託報酬0.10725%0.7755%
資産成長率2.18倍4.04倍

比較結果

FANG+のリターンがSP10を大幅に上回っています。この差(約21.5%)は、FANG+が均等加重平均型を採用し、ブロードコムやネットフリックスなどの高成長銘柄の恩恵を均等に受ける一方、SP10が時価総額加重平均型でマイクロソフトやアップルに偏り、下位銘柄の影響が限定的なためです。FANG+の定期リバランスが市場変動を利用してリターンを最適化するのに対し、SP10は集中リスクと「高値掴み」リスクを伴います。信託報酬の差(0.66825%)はSP10のコスト優位性を示しますが、リターンの差に比べ影響は小さく、FANG+の高いリターンがハンディキャップを補います。

なぜ均等加重平均型が優れているのか?

均等加重平均型のインデックスは、以下のような理由で長期投資において有利とされます。

  1. 集中リスクの軽減:時価総額加重平均型では、特定の銘柄が市場を牽引する局面でその銘柄に過度に依存します。例えば、2022年のような下落相場では、SP10のボラティリティがS&P500全体よりも高かったと報告されています。均等加重平均型は、各銘柄に均等に投資することで、このリスクを分散します。
  2. 成長機会の最大化:FANG+のように、成長性の高い銘柄を均等に保有することで、特定の銘柄が突出したパフォーマンスを示した場合でも、その恩恵を最大限に受けられます。SP10では、時価総額の小さい銘柄の影響が限定的です。
  3. リバランスの効果:均等加重平均型は定期的なリバランスを通じて、「高値で売り、安値で買う」戦略を自動的に実行します。これにより、市場の変動を利用してリターンを最適化できます。一方、SP10の時価総額加重平均型は、株価上昇に伴い自動的に比率が増えるため、リバランスの恩恵が少ないです。

なぜSP10をお勧めしないのか?

SP10は低コストで魅力的に見えますが、以下の理由からお勧めできません。

  1. 時価総額加重平均型の限界:少数銘柄における時価総額加重平均型は、分散効果が乏しく、集中リスクが高い構造的欠陥を抱えます。均等加重平均型のFANG+が過去10年で優れたリターンを示していることからも、SP10の運用手法は長期投資に向いていません。
  2. ハイリスク・ハイリターンの特性:10銘柄への集中投資は、S&P500全体やNASDAQ100に比べてボラティリティが高く、2022年のような下落相場での損失リスクが大きいです。

私はSP10に対して批判的な見方をしていますが、同じく20銘柄の時価総額加重平均で構成されるZテックと比較した場合、SP10は投資信託として優れていると言えます。というのも、Zテックでは下位銘柄の構成比率がSP10と比べて極めて小さくなってしまうからです。

結論

私は長期投資を前提に、分散投資と安定性を重視しています。そのため、SP10のような集中投資型のファンドはポートフォリオのコアには適さず、サテライトとしての役割もFANG+の方が魅力的です。投資家は、SP10を分散投資の手段ではなく、ビッグテックへの戦略的な集中投資として捉え、リスク選好に応じて選択する必要があります。

ハイテク株ブームに乗るのは魅力的ですが、SP10はそのリスクとリターンのバランスが私の投資哲学に合いません。投資を検討する際は、自身のリスク許容度と投資目標を明確にし、コストだけでなく運用手法の特性を深く理解することが重要です。あなたなら、どのファンドを選びますか?


免責事項:本記事で提示したSP10(年平均リターン16.89%)およびFANG+(年平均リターン38.40%)のリターンは、AIによる算出に基づいています。これらの値は、ICE Data Indicesのバックテストデータ(SP10)および過去実績データ(FANG+)を用いて推定されていますが、AIのデータ処理や推定方法に誤りが含まれる可能性があります。投資判断を行う際は、ICE Data Indices、Investing.com、Yahoo! Financeなどの信頼できる情報源から公式データを確認し、自身の責任で慎重に評価してください。また、SP10に関する考えはあくまで私個人の見解に過ぎません。

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