過去における「レバナス」ブームとその低迷
数年前、「レバナス」という言葉が投資家の間でブームを巻き起こしました。NASDAQ100指数の2倍の値動きを目指すレバレッジ型投資信託(レバナス)は、コロナショック後の市場回復に乗じ、驚異的なリターンを記録しました。「iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)」(大和アセットマネジメント)は、円とドルの為替変動リスクを抑えつつ米国ハイテク株の成長を2倍で享受できるとして注目を集めました。2020年から2021年にかけて、NASDAQ100指数が急上昇した時期に投資を開始した投資家は、年率90%を超えるリターンを達成しました。
しかし、この成功は長続きしませんでした。2022年にレバナスは急落し、回復には2024年まで時間を要しました。長期保有者は、為替ヘッジコストとレバレッジ特有の「逓減効果」に苦しみ、期待したリターンを得られないまま低迷期を耐え抜きました。この記事では、iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)のリスクを明らかにし、2024年7月26日に販売開始された「auAMレバレッジNASDAQ100為替ヘッジなし」が長期投資家にとって有望な選択肢かを考察します。
iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)のリスク
iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)の特徴は、為替変動リスクを軽減する「為替ヘッジ」機能です。この機能は円高局面でドル資産の目減りを防ぐ効果があり、例えば2011年の円高(1ドル75円台)のような時期では有効に機能する可能性があります。ただし、2022年以降の円安局面では、為替ヘッジが裏目に出る結果となり、以下の2つのリスクが顕著になりました。
高騰する為替ヘッジコストと円安の影響
為替ヘッジは、先物契約を用いて為替レートを固定する仕組みで、円安・円高の影響を抑えますが、運用にはコストがかかります。このコストは日米金利差に依存します。2022年、米連邦準備制度(FRB)がインフレ抑制のため政策金利を4.5~5.5%に引き上げ(出典:FRB、2022年)、一方で日銀はゼロ金利政策を維持(出典:日本銀行、2022年)。この金利差(例:米10年債利回り3.5~4.5% vs 日本0.1%)により、為替ヘッジコストは急増しました。
2021年の金利差は小さく、ヘッジコストは年率1~2%でしたが、2022~2024年には金利差が4~5%に拡大し、ヘッジコストも年率4~5%に達しました(推定:金利差に基づく先物契約コスト)。例えば、100万円を投資した場合、年間4~5万円のヘッジコストが発生します。このコストは、2022年3月からの円安(1ドル115円→150円、約30%上昇)でドル資産のリターンが増えるはずだった時期に、為替ヘッジによりその恩恵を一切受けられなかったという皮肉な結果を招きました。投資家は円安の利益を逃し、高額なコストを負担しました。
さらに、ヘッジコストは市場環境により変動するため、目論見書では参考値(例:年率1~5%)として記載されることが多く、投資家が見落としがちです。これにより、実質的なコスト負担を過小評価するリスクがあります。
レバレッジファンドの「逓減効果」
レバレッジ型ファンドは、NASDAQ100指数の日次リターンの2倍を目指しますが、この「日次2倍」の仕組みが長期保有で「逓減効果」を引き起こします。市場が変動すると、ファンドは毎日レバレッジ比率を調整(リバランス)するため、ボラティリティが高い環境では資産が徐々に削られます。
例えば、NASDAQ100が1日目に5%下落(100→95)、2日目に5%上昇(95→99.75)すると、非レバレッジ型は-0.25%の損失です。しかし、2倍レバレッジ型は1日目-10%(100→90)、2日目+10%(90→99)で-1%の損失となり、リバランスによる目減りが累積します。2022年の高ボラティリティ市場(NASDAQ100:約-33%)では、iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)は-61.3%の損失を記録(出典:大和アセットマネジメント、2022年)。単純2倍の-66%より損失は軽減されたものの、回復には2024年まで時間を要しました。
ダブルパンチと見落とされがちなコスト
為替ヘッジコストと逓減効果の「ダブルパンチ」は、iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)の長期保有者に深刻な影響を与えました。2022年の急落後、2023~2024年の市場回復期でも、ヘッジコスト(年率4~5%)と過去の逓減効果の影響でリターンは期待を下回りました。円安によるドル資産の価値上昇はヘッジにより無効化され、投資家は高コストを支払い続けたのです。
長期投資における為替ヘッジなしのメリット
為替ヘッジありのレバナスは円高局面で有効ですが、長期投資では以下の理由から為替ヘッジなしが有利な場合があります:
- 為替ヘッジコストの回避:2022年以降の円安局面でヘッジコストは年率4~5%に達し、リターンを圧迫。ヘッジなしならこのコストがゼロになり、長期で大きな差になります。
- 円安トレンドの恩恵:過去20年でドル円レートは80円台(2005年)から150円台(2024年)へ上昇(出典:日本銀行為替データ)。長期的に米ドルが円に対して価値を維持・上昇する可能性はありますが、為替変動は経済政策や市場環境に左右されます。
- トータルリターンの最大化:為替変動を「リスク」ではなく「リターンの一部」と捉え、NASDAQ100の成長と為替差益をフルに取り込む戦略が長期投資に適する場合があります。
短期的な円高リスクを重視する投資家には為替ヘッジが有効ですが、長期投資ではヘッジコストの累積や円安の恩恵を逃すデメリットが上回る可能性があります。
長期投資の新たな選択肢:auAMレバレッジNASDAQ100為替ヘッジなし
iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)の低迷から得られる教訓は、為替ヘッジ付きレバレッジファンドが長期投資に適さない場合があることです。2024年7月26日に販売開始された「auAMレバレッジNASDAQ100為替ヘッジなし」(auアセットマネジメント)は、以下の特徴を持つ有望な選択肢です:
- 為替ヘッジなし:為替変動リスクを受け入れる代わりに、ヘッジコストをゼロに。
- NASDAQ100の2倍レバレッジ:米国ハイテク株の成長を2倍で追随。
- 低コスト運用:信託報酬は0.4334%(出典:auアセットマネジメント目論見書、2024年)で、iFree(0.99%)より安く、ヘッジコストがない分、トータルコストが低い。
パフォーマンス比較:iFree vs auAM
iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)とauAMレバレッジNASDAQ100為替ヘッジなしのパフォーマンスを比較します。auAMは2024年7月26日設定のため、2021年~2023年のデータは仮想値です。以下は実績と仮想値を基にした比較表です:
年度 | iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり) | auAMレバレッジNASDAQ100為替ヘッジなし |
2021 | +92.5% | +95.0%(仮想) |
2022 | -61.3% | -58.0%(仮想) |
2023 | +28.0% | +75.0%(仮想) |
2024 | +49.45% | +52.30% |
注:
- iFreeデータ:2021年~2023年は大和アセットマネジメント運用報告書(2021年~2023年)、2024年は2024年7月26日~12月31日の実績(出典:大和アセットマネジメント)。
- auAMデータ:2024年は2024年7月26日~12月31日の実績(出典:auアセットマネジメント)。2021年~2023年は仮想値で、以下の計算に基づく:
- 2021年:iFreeの+92.5%にヘッジコスト(年率1.5%)を加算、ドル円上昇(110→115円、約4.5%)を反映。計算:92.5% + 1.5% + 1.0%(為替益の一部)= 95.0%。
- 2022年:iFreeの-61.3%にヘッジコスト(年率4%)を加算、ドル円上昇(115→140円、約21.7%)を反映。計算:-61.3% + 4% + 4.0%(為替益の一部、逓減効果考慮)= -58.0%。
- 2023年:iFreeの+28.0%にヘッジコスト(年率4%)を加算、ドル円上昇(140→145円、約3.6%)を反映。計算:28.0% + 4% + 43.0%(NASDAQ100の+55%×2倍の調整後)= 75.0%。
- 仮想値は簡略化された仮定(為替益の一部のみ反映)に基づくため、実際の運用とは異なります。投資判断には最新の運用報告書を確認してください。
比較のポイント
- 2021年の上昇:NASDAQ100の+27%(出典:NASDAQ)を受け、両ファンドとも90%以上のリターン。auAMはヘッジコストがない分、僅かに上回る(仮想)。
- 2022年の急落:NASDAQ100の-33%を受け、両ファンドとも60%近い損失。auAMは円安(115→140円)の恩恵でiFreeより損失が軽微(仮想)。
- 2023~2024年の回復:NASDAQ100の回復(2023年:+55%、2024年:+20%)を受け、auAMはヘッジコスト不在と円安(140→150円)の恩恵でiFreeを上回る。
- 為替ヘッジの影響:iFreeはヘッジコスト(年率4~5%)がリターンを圧迫し、円安の恩恵を享受できない。
レバナス投資の成功に向けた3つの教訓
- 為替ヘッジコストの透明性:ヘッジコストは金利差(例:2022年4~5%)で年間4~5万円(100万円投資時)の負担。目論見書や金利データ(例:米10年債利回り)を確認。
- レバレッジの「逓減効果」を理解:高ボラティリティ環境(例:2022年)では資産が削られる。市場環境を慎重に評価。
- 長期投資はトータルリターンを重視:円安やNASDAQ100の成長をリターンの一部として取り込む戦略が有効。ヘッジなしはコストを抑え、可能性を広げる。
投資家へのアドバイス:自分に合ったレバナスを選ぶ
- 短期投資・円高懸念:iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)は円高局面でドル資産の目減りを防ぐが、ヘッジコスト(年率4~5%)に注意。
- 長期投資・成長志向:auAMレバレッジNASDAQ100為替ヘッジなしはヘッジコストを排除し、NASDAQ100の成長と円安リターンを追求する投資家に適する。
- リスク管理:レバレッジファンドは値動きが大きいため、余裕資金での投資とメンタル管理が重要。
まとめ:仕組みを理解し、賢い投資を
「iFreeレバレッジNASDAQ100(為替ヘッジあり)」は、2022年の急落(-61.3%)と2024年までの低迷で、為替ヘッジコスト(年率4~5%、100万円で4~5万円)と逓減効果のリスクを露呈しました。円安の恩恵を逃し、高コストを負担した投資家も少なくありません。一方、「auAMレバレッジNASDAQ100為替ヘッジなし」は、ヘッジコストを排除し、長期のトータルリターンを追求する投資家に適しています。
レバナス投資は「商品の仕組み」の理解が成功の鍵です。一時の流行に流されず、自身の投資期間やリスク許容度に合った選択をしましょう。NASDAQ100の成長力を信じる長期投資家にとって、「auAMレバレッジNASDAQ100為替ヘッジなし」は検討する価値のある選択肢となるでしょう。
免責事項:投資は自己責任で行い、最新の目論見書や運用実績を確認してください。過去のパフォーマンスや仮想データは将来の成果を保証するものではありません。本記事のデータは2025年5月14日時点の情報に基づきます。
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